ASEAN経済圏は、一大グローバル経済圏へ向けて発展

東南アジア諸国連合(ASEAN)は、2015年までにアジア太平洋地域において、欧州連合のような形の経済圏の構築を目指す諸国の集まりである。これまで中国とインドのために影が薄かったが、ASEANは、力強い消費水準、伸長を続ける投資や貿易に牽引された一大グローバル経済圏へと発展しつつある。しかし、この経済圏が成功するためには、政策立案者たちはインフレ圧力に注意する必要がある。これまでインフレ圧力によって、急成長中の新興市場の多くが挫折してきたからだ。

ポイント: 

  • 2013年の時点で、ASEANの加盟国は以下の10ヵ国となっている。インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア。2012年における、これら10ヵ国の人口は合計6億400万人で、GDP総額は2兆3000億米ドルに上る。
  • 2015年の経済共同体実現を踏まえ、同経済圏は真の成長を促進するため、経済の範囲と規模を基盤にASEAN諸国を発展させることを目指している。これは、ASEAN自由貿易地域(AFTA)の次のステップとして理に叶った動きと言える。1992年に設立されたAFTAは、1992年から2012年の間に、この地域からの実質輸出高を567%上昇させる上で貢献した。
  • ASEANのGDP総額は、地域全体にわたる堅調な成長のため、2013年から2020年の間に44.9%の伸長が見込まれている。この連合は、将来の発展が見込まれる国と、より成熟度の高い新興市場とが独特な形でミックスされているため、その消費水準が成長牽引の鍵となる中産階級が急成長しつつある。
  • 相対的に見て、中国はASEAN諸国より競争力が低下する傾向にあるため、ASEAN経済圏は、2015年に経済統合が実現すれば、潜在的投資家にとってより魅力的なものとなろう。しかし、このレベルの統合にはリスクが伴う可能性がある。特に、急成長中の諸国間でインフレが広がるというリスクがある。

ASEAN加盟国の期間成長率: 201014年対201520


ASEAN加盟国の期間成長率: 2010~14年対2015~20年

出典:国別統計/Eurostat/OECD/UN/国際通貨基金(IMF)に基づくユーロモニター・インターナショナル、国際金融統計(IFS)注記:2013~20年のデータは予測値

グローバル経済の製造拠点 

ASEAN加盟国の間には、1992年から自由貿易圏があった。ASEAN自由貿易地域(AFTA)は、本来、地域内の貿易と投資促進を目的としたものだが、一つの市場としての基盤を形成し、世界の他の地域に向けた製造拠点として、地域の競争力を強化するためのものでもあった。20年を経て、このビジョンは実現されつつある。1992年から2012年の間に、この地域からの輸出は実質で567%上昇し、同期間、海外からの直接投資も395%伸びている。

  • 1992年から2012年の20年間で、ASEAN諸国間の貿易は米ドルで753%上昇し、加盟国は、いずれもAFTAから大きな恩恵を受けている。2015年に成立する経済圏の前身であるAFTAにより、これらの諸国は規模の経済のメリットを活用すると同時に、国外市場を開拓することができた。
  • AFTAで促進された開放性により、ASEAN加盟国は、特に過去10年間、海外投資家にとって非常に魅力のあるものとなっている。貿易障壁が低いこと、および安い労働力が、依然として、海外投資家が他の新興市場、特に中国ではなくASEAN諸国を選ぶ主な理由となっている。中国は労働賃金が高くなり通貨が上昇し続けているため、投資家にとって魅力が減っている。2012年、ASEAN加盟国の中で、米ドルベースで中国より時間当たりの製造労働賃金が高いのは、シンガポールとマレーシアの2国のみだった。過去には、アジア太平洋地域でのプレゼンスを確立しようとする多国籍製造企業は、何の迷いもなく中国に本社や製造拠点を置いたものだ。しかし、製造業の賃金や不動産価格が上昇しているため、中国は以前ほど魅力ある場所ではなくなりつつある。ASEANの中に、貿易障壁がなく人とモノが自由に行き来する経済圏が形成されれば、世界銀行の「Ease of Doing Business(ビジネスのしやすさ)」で常にトップ3国に入るシンガポールのような国にグローバル本社を置き、中国より時間当たりの製造賃金が安い他のASEAN加盟国に製造拠点を置くのは、今よりさらに合理的なことになろう。

ASEANの輸出総額対海外からの直接投資:2007年~2012


ASEANの輸出総額対海外からの直接投資 2007年~2012年

出典:国別統計/Eurostat/OECD/国際通貨基金(IMF)に基づくユーロモニター・インターナショナル、国際金融統計(IFS)、UNCTAD。

  • しかし、貿易や投資への開放性は弱さを生むことにもなり、経済圏の形成で、それがさらに深刻化する可能性がある。上の図表により、輸出と海外からの直接投資は共に、2008年~2009年の世界金融危機と2012年の先進諸国における経済停滞により打撃を受けたことが分かる。ASEAN加盟国間の経済統合を深めることにより、経済がよい時期にはメリットをもたらすが、さらなる経済ショックが起これば、密接に繋がっている諸国間に、地域全体に及ぶ不況をもたらすリスクが大きくなるだろう。

与信の急増と資産価格の上昇により生まれるリスク 

近年ASEAN諸国全体に見られる堅調な実質成長率は、貿易や投資に留まらない。この地域における所得は上昇し、消費水準も力強く、経済圏の形成が所得や消費水準の成長に与える影響は、より大きいと言える。しかし与信が急増し資産価格が上昇すれば、それは連合諸国全体で物価を押し上げることになり、より成熟度の高い加盟国のインフレ圧力が発展の途についたばかりの国に広がる可能性がある。

  • 住民世帯が個人用に消費したモノやサービスの支出総額の測定値である民間最終消費支出(PFCE)は、ASEAN全体で2005年から2012年の間に実質で44.7%上昇した。ユーロモニター・インターナショナルは、2013年から2020年の向こう7年間で、この地域のPFCEはさらに46.1%上昇すると予測している。消費が最も速く上昇するのはラオスで実質73.4%、最も遅いのがシンガポールの29.3%と予想される。
  • 民間セクターにおける銀行債権は2005年から2012年の間で実質37.1%上昇しており、これは、与信の需要が高まり連合地域全体において消費を煽っていることを示している。与信が簡単になると地域での資産価格上昇に拍車がかかるため、ASEANでは、これが潜在的な懸念原因となっている。米国、英国、日本などの先進諸国で量的緩和政策がとられたことで、過剰なまでの海外投資家が、この地域、特に東南アジアで日ごとに価値が上昇中の土地に対して資金を投入することになった。そのように大量の資金が経済に投入されると、過熱化と資産バブルを引き起こす可能性は、現実のリスクとなる。
  • 2013年に国際通貨基金(IMF)がASEANに対し、インフレ圧力について警告したものの、2013年における地域全体の平均インフレ率は4.6%と予測され、地域の中央銀行の許容範囲内に留まっており、喫緊の懸念事項とはなっていない。IMFの勧告は、連合の中央銀行に対し、単に向こう10年間に慎重な金融政策をとるよう注意を喚起する以上のものがある。特に、わずか2年以内にASEAN経済圏の形成という形で統合が実現される時には、その意味するところは大きい。

展望 

ASEAN経済圏の形成は、将来の発展が見込まれる国と、より成熟度の高い新興市場の、独特なミックスの結び付きをさらに強化するもので、この統合がグループの強靭性の源泉となることが期待されている。ASEAN加盟国には、大きなプレッシャーがかかっている。なぜなら、これらの国は、少なくとも向こう10年間、世界で最も高い成長率を持つ地域において、その成長を主導して行くことが広く期待されているからだ。

  • 貿易と投資水準は、経済圏の統合に伴い上昇して行くようになっている。ASEANは、アジア太平洋地域のサプライ・チェーン・ネットワークの重要な部分として、加盟国にとって非常に特異な役割を担ってきた。特に中間財の世界貿易のハブとしての役割で、それはASEAN加盟国間の統合が深まるにつれ、より顕著になるだろう。
  • カンボジア、ミャンマー、ラオスなど、ASEANの中でも貧しい国々の消費者は、この統合プロセスからの恩恵を受け、生活水準と実質賃金が上昇するだろう。しかし、ASEAN周辺における過熱化によるインフレ圧力は、グループ内の最も貧しい消費者たちに諸問題をもたらす可能性もある。
  • 2008年から2009年にかけての世界金融危機の後、世界は、ユーロ圏の「より緊密な統合」が持つ落とし穴を見ることになった。そして、お粗末な枠組みの中で実現された過剰な経済および金融統合が、世界経済にどれほどの弊害をもたらすかを目の当たりにした。ASEAN加盟国が、これらの過ちから学び、長期的な急成長より、健全な金融機関と強固な経済ファンダメンタルズを優先させることを願う。