香港:日本酒業界の新たな重要市場

※本記事は英語でもご覧頂けます:Hong Kong: The New Cash Cow for Japanese Sake Manufacturers

米を原料とした伝統的なアルコール飲料である日本酒は、日本人の生活、ひいては国民文化の一部として、特別な日だけでなく日常的にも親しまれている。しかし、日本市場が縮小傾向にあることから、酒造メーカーは海外市場における成長の可能性を探っている。香港もまたそのような市場のひとつであり、日本文化に親しんできた長い歴史があることから、日本製品も受け入れやすい。プロモーション活動や小売店への浸透もあり、香港の消費者の間で日本酒の人気は高まっており、現地の飲酒文化における存在感も大きくなっている。

日本国内で縮小する日本酒の売上

日本国内での日本酒の売上は減少しつつある。日本酒の需要は中高年層に集中しがちだが、アルコール消費量は、年齢とともに少なくなる傾向にある。日本酒業界は成人若年層での消費拡大を目指しているが、彼らが好むのは、RTD飲料のような、より甘い、低アルコール飲料製品であることが多い。

近年、日本酒業界での唯一の明るい話題であったのが、吟醸(精米歩合60%以下)や大吟醸(精米歩合50%以下)といった中~高価格帯日本酒への人気の高まりである。精米歩合が高いほど雑味が少なく、香り豊かな酒になるため、より高級な区分に分類される。このような品質は、今日の消費者の高級志向にマッチしており、成人若年層の間で評価が高まっている。しかし、これらの製品は主に外食時に嗜まれることが多く、2020年はパンデミックの影響でレストランやバーに営業時間の短縮が求められたことから、外食産業が大きな打撃を受けた。その結果、日本酒の外食販売量は2020年に40%減少し、小売と外食の合計販売量を12%引き下げた。2021年以降は多少の回復が期待できるものの、パンデミック収束後の世界における飲酒機会の減少や消費者の高齢化などにより、市場は停滞すると予想される。

日本における日本酒の市場規模と前年比成長率(小売と外食の合計販売数量ベース)2016年~2025年

Total Volume Size and Growth of Sake in Japan, 2016-2025

Source: Euromonitor International

輸出に活路を見出す

日本国内における需要が減少していることから、酒造メーカーは今後も成長を維持するべく、海外市場への輸出に注目している。日本政府は、2016年に決定した農林水産業の輸出強化戦略の中で、日本酒を重点商品のひとつとして選定している。財務省によると、日本酒の輸出額は2020年に過去最高となる241億円に達し、11年連続で増加している。

日本酒の輸出額

Export Value of Sake, Japan

Source: Euromonitor International from Ministry of Finance, Trade Statistics of Japan

香港:日本酒にとって重要な成長市場

香港は、グレーターベイエリアの主要都市のひとつであり、消費者が日本の文化や製品を好む傾向にあることから、日本酒メーカーにとっては非常に重要な商機があるといえる。香港の消費者は日本文化への関心が高いことで知られており、旅行先では日本が常にトップ3にランクインしている。特に日本の飲食料品は、香港の多くの消費者に好まれており、嗜好性、品質、プレミアム感の観点から、しばしば業界のベンチマークとして認識されている。このような親日的な流れに乗って、ドン・キホーテのような日本のバラエティショップが香港で大きな成功を収めている。

日本酒は、その種類の多さやすっきりとした味わい、豊かな口当たりから、香港でも非常に魅力的な製品として見られている。「獺祭」、「十四代」、「梵」などの人気のある日本酒ブランドは、日本食レストランやバー、酒専門店だけでなく、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで見られるようになった。さらに、北海道など日本の各都道府県で作られた地酒が香港でも入手できるようになっている。このような新しい日本酒の選択肢が増えることで、香港では日本酒製品の多様化が進み、日本の地元名産品や本物志向の味などが楽しめるほか、目新しさもあって消費者の関心や需要が高まっている。

香港における日本酒のプロモーション活動

香港市場における可能性を見出した様々な組織や業者が、日本酒のプロモーションを積極的に行っている。例えば、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)は、2019年から香港で日本酒のプロモーションを積極的に行っている。JFOODOは、日本酒を海外でプロモーションする全体的な戦略の一環として、日本酒とシーフード料理の結びつきを強く確立することで、日本酒を飲む機会や使用する機会を和食以外にも拡大しようとしている。  JFOODO は、2019年9月から2020年3月にかけて、様々なイベントやチャネルを通じ、日本酒とシーフード料理の相性の良さを訴求する大規模なキャンペーン「Seafood Loves Sake」を行った。このキャンペーンが好評だったため、2020年11月から2021年1月にかけても、日本酒と地元広東料理のシーフード料理との組み合わせというコンセプトに重点を置き、キャンペーンをさらに展開した。

プロモーション活動は、地元の小売業者の後押しも受けている。香港の高級スーパーマーケットチェーンであるCity’s superでは、2020年と2021年、同社が毎年開催している日本酒フェアで、日本各地から取り寄せたさまざまな日本酒を店頭に並べてプロモーションを行った。このフェアは、地元香港の日本酒ファンにとって、佐賀、秋田、京都といった日本の様々な酒造地域を、土地ごとの郷土料理や飲み物を楽しみながら巡るような体験ができる機会となっている。

2019年、2020年の非常に厳しい状況を経て、回復は目前に

香港における日本酒の需要は、パンデミック収束後はさらに増加すると予想される。事実、このカテゴリーは、2019年に香港民主化デモが起こるまでは自律的に拡大を続けていた。しかし、大規模なデモの高まりによって外食店舗が閉鎖されたり、中国本土からの観光客が減少したことから、アルコール飲料業界全体は大きな影響を受けた。2020年には、新型コロナウイルス(COVID-19)が外食と観光産業に壊滅的な打撃をもたらしたことから、日本酒需要はさらなるマイナス影響を受けることとなった。しかし、需要は回復傾向にあり、2020年から2025年にかけての日本酒の小売と外食の合計販売量は年平均成長率13%で増加し、2025年には128万リットルに達すると期待されている。

香港における日本酒の市場規模と前年比成長率(小売と外食の合計販売数量ベース)2016年~2025年

Total Volume Size and Growth of Sake in Hong Kong, 2016-2025

Source: Euromonitor International

高品質が成長のカギとなる

香港の人々の間では、日本酒はファッショナブルでプレミアムな選択肢であると認識されており、今後も成長が予想されている。マインドフル・ドリンキングの考え方や、味の好みが洗練された影響もあり、日本酒愛飲家は量よりも質を重視するようになるだろう。そして、これらの高品質なお酒には、より多くのお金を支払うことも惜しまない。プレミアムブランドである「獺祭」や、日本の酒蔵で有名な県の地酒といった本物志向のブランドは、売上増加が期待される。

今後の展開

香港における日本酒人気の高まりは、日本の酒類メーカーにとって、縮小する日本市場の外、すなわち海外市場での展開の重要性を示している。我々は過去数年間にわたり香港市場を観察してきたが、日本酒業界にとっての同市場の重要性は今後も高まり続け、さらに発展と進化を続けていくと思われる。また、香港市場での成功は、日本国内市場にとっても重要な教訓となる。日本酒は日本の伝統的な飲み物であるにも関わらず、若い世代の間では日本酒を飲む機会が定着しておらず、これが市場低迷の大きな要因のひとつとなっている。新たな日本酒の飲用シーンを創出することで日本国内の市場も活性化し、従来の日本酒愛好家以外にもアピールできる可能性が広がるだろう。香港での成功は、それが可能であることを如実に示している。

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(翻訳:横山雅子)