都市部に成長機会を求める家具小売企業

皆さんは家具を探すとき、どの店やブランドを思い浮かべますか?無印良品、ニトリ、そしてイケアは、いずれも多くの消費者がまず思い浮かべるブランドでしょう。これら3ブランドを、ブランドイメージ、消費者体験、出店戦略の3つの側面から比較し、消費財にとってブランディングの要とは何かを考察していきます。

無印良品、ニトリ、そしてイケアに共通している点は、比較的手軽に、コストパフォーマンスの良い家具を見つけられることです。しかし、価格帯が全く同じというわけでもなく、似ているようで実は異なるブランドイメージを有しています。例えばシンプルな二人掛けのソファーの場合、価格帯は無印良品が5~6万円から、ニトリは2~3万円から、イケアは1~2万円からとなりますが、ブランドイメージとしては、無印良品は「素朴」や「自然」、そして「静か」という印象が強いのに対し、ニトリは「機能的」や「実用的」、そして「日本の家にフィットする」という印象があります。一方で、イケアは「ポップ」、「カラフル」、「高いデザイン性」という印象があります。ここからは、それぞれのブランドの特徴について、より詳しく見ていきます。

無印良品は文字通り、無印=ノーブランドというブランディングが原点となっています。無印だけれど良品、つまり“ブランド”を冠しないことによるコストパフォーマンスの高さを謳ったのです。しかし、無印良品が持つ独特の世界観はいつしかそれ自体がブランド化し、コストパフォーマンスに特別秀でているということよりも、その世界観そのものが、彼らのブランドの大きな特徴となりました。プレーンなデザインや、ブランドのビジョン・メッセージ、オーガニックでエシカルなイメージなどに共感する人々が無印良品のコアなファンと言えるでしょう。無印良品の家具のデザインは、使用する色が少なくミニマルで素朴なイメージがあり、無印良品の世界観を想起させるものとなっています。

ニトリは「お、ねだん以上。」をコアコンセプトに据えて大きく成長してきました。製造小売業の形態をとり、製造から流通、販売までを一気通貫で担うことで品質と価格のバランスを高次元で実現しています。しかし、低価格路線で成功した一方で、それゆえに安かろう悪かろうのイメージからニトリを敬遠する消費者がいたことも事実です。そういった背景から、近年では安さよりもトータルコーディネートを謳い、雑貨類の商品ラインナップを豊富に揃え、品質やデザイン性を理由にニトリを避けてきた層を取り囲もうとテコ入れをしています。ニトリの家具は、日本の家に配置することを念頭に置いており、機能性が高いことが大きな特徴と言えます。同じシリーズであっても、毎年何らかの新しい価値を加えようとする姿勢も成功の一因であると考えられます。

イケアについては、グローバル規模での大量生産に加え、オペレーション費用の極小化が同ブランドのコスト競争力の高さに繋がっていると言えます。例えば、輸送効率を上げたり保管コストを下げたりするために工夫されたフラットパックという組み立て式家具の構造が有名です。しかし日本では、近年店舗数の伸びが緩やかであり、結果として顧客基盤が十分に広がっていないことが課題として挙げられます。イケアの大きな魅力の一つが、数多くのイケア製品に囲まれた店内を順路に沿って進むことで得られる、心躍るような独特な購買体験にあります。そのため、いかに、より多くの消費者にその体験をしてもらう機会を増やしていくかが重要だと言えるでしょう。また、北欧デザインにも特徴があります。カラフルでポップ、暖かさを感じさせるものもあれば、シックでスタイリッシュ、厳かな雰囲気を感じさせるものもあり、様々な要素が同居しているのは、イケアならではと言えます。

ここまで、多くの消費者にとって身近な家具3ブランドについて、そのブランドイメージの違いを見てきました。無印良品、ニトリ、イケアのいずれのブランドもマス層をターゲットとしていますが、その強みや取ってきた戦略は必ずしも一致しません。ここからは、消費者体験や出店戦略の切り口から比較していきます。

数えきれないほどある競合商品の中から、どのようにして消費者に自社商品を選んでもらうか?多様化する消費者ニーズを理解することは、今やビジネスを行う上で必須です。当社では、2030年にかけて世界のビジネスに大きな影響を及ぼすであろう最も重要な消費者トレンドを「メガトレンド」として分類し分析しています。

このメガトレンド分析のうち「コト消費(Experience More)」に焦点を当て、3ブランドの取り組みについて分析してみましょう。

「コト消費(Experience More)」とは、商品・サービスから得られるブランド体験を重視する消費者トレンドのことを指します。消費者はより一人ひとりに合わせてパーソナライズされたオーセンティック(本物志向)な商品・サービスを求めており、ブランド側もそのニーズを満たすため、消費者とよりダイレクトなコミュニケーションをとる傾向が見られます。

言い換えれば、消費者が求めているのは単に品質や価格面で優れた商品ではなく、思わず惹き付けられるような世界観・購買体験を提供してくれる商品であり、ブランド側としてもそのようなブランドイメージを構築・伝達していくことは避けては通れないポイントとなりつつあります。

イケアの例でいうと、一部の店舗で実施しているイケアレストランやスウェーデンフードマーケットにおいて、本業とは一見関連の薄い食料品を販売しています。家具を販売するのではなく、食料品という消費者にとって最も身近な商品カテゴリーを通して、イケアの持つ北欧由来のヘルシーでサステナブルなライフスタイルを印象付ける場を提供していると言えるでしょう。

また、無印良品においては2019年4月4日に国内では初となるホテル業態「MUJI HOTEL GINZA」と飲食業態「MUJI Diner」を開業しました。ホテルやレストランで無印良品製の商品を実際に使用できる、とだけ聞くと、さほど新しいアイディアのようには感じられないかもしれませんが、ブランドイメージに基づいて構築された宿泊・飲食体験を直に消費者に提供する場があるということは、消費者に無印良品の世界観を理解してもらうのに、これ以上ない武器になり得るでしょう。

いずれのブランドも、実店舗において家具を販売することからもう一歩踏み込んで、消費者により広い意味でのブランド体験を提供しているのが特徴的です。これは、消費者が商品の性能・価格だけでなく、その商品にまつわるストーリーやブランドそのものに対してどれだけ共感できるかを重視しているということを、イケアと無印良品の両ブランドがよく理解していることの表れであると言えるでしょう。

一方、ニトリに目を向けると、ウェブサイト上でブランドイメージを高めるようなコンテンツはあるものの、実店舗における取り組みはまだ少ないように見えます。一体、ニトリはどのようにして消費者にアプローチしているのでしょうか。

その答えの一つが、近年進められている都市型店舗の出店です。2015年以降、ニトリは積極的に都市部への出店を進めており、結果としてより多くの消費者に身近なブランドとして認知されることに成功しています。イケアや無印良品のように、別業態でブランドの世界観を表現するのではなく、出店戦略によって消費者とのタッチポイントを増やし、ブランドを理解してもらうというアプローチを取っているのです。

出店戦略という観点では、イケアはグローバルで都市型店舗の展開を計画し、パリやニューヨークといった、流行の発信都市と言われる5都市に店舗をオープンすることを発表しました。日本では、原宿に2020年春を目途に都心型店舗をオープンすることが発表され、国内家具市場の競争は都心へとシフトしています。これまで、家具小売店は店舗面積を確保するため、郊外に大型店舗を展開していましたが、2015年にニトリが池袋と銀座に進出したことで、流れが変わりました。ニトリの売上拡大の背景には、機能性商品の成功も挙げられる一方、都市部への店舗進出を強めたこともまた、要因の一つです。同じく日本では特に都市部への人口流入が続いているため、この動きは今後も継続することが考えられます。

都市型店舗では購入頻度の低い家具ではなく、食器などの雑貨類を主に販売しています。消費者との接点を増やし、消費者にブランドへの理解を深めてもらうことで、将来的に家具を購入する際により選んでもらいやすくするという好循環が期待されます。

(image above, Nitori’s in-store picture, taken by an analyst)

無印良品においても、衣類や食品など、持ち帰りやすい商品の販売比率が高く、ニトリの都市型店舗と類似した店舗運営を行っていると言えます。そして、イケアの原宿店についても、その店舗面積を考えると、同様の店舗経営を目指すと見られます。限られた店舗面積でいかにイケアの世界観を表現し、都市部で生活する消費者を郊外大型店舗に誘導できるかが、今後のイケアの大きな課題となるでしょう。

消費者から支持を得るには、消費者が共感できるブランドイメージや商品の背後にある世界観を持つこと、そして顧客とのより多くの接点が求められます。その中で企業は既存のビジネス領域から離れ、よりダイレクトな顧客との接点を模索しています。例えば、良品計画はホテルを開業し、消費者がブランドの世界観に触れられる場所を設けました。これは、激しい競争環境の中でいかに消費者に選んでもらうのかという点で、家具業界に限らず、あらゆる消費財業界において今後避けては通れない課題ではないでしょうか。