新型コロナウイルスから1年:デジタル化、現地調達への注力、都市部から地方への人口移動がインドの消費財市場を形成する

※本記事は英語でもご覧頂けます:Coronavirus: How Digitalisation, Localisation and Reverse Migration are Shaping FMCG in India, One Year On

2020年3月に新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが発生してから1年、インドは壊滅的な第2波に見舞われている。現在、インドは世界で2番目に多い感染者数を記録しており、2021年4月現在、一部の州では完全または部分的なロックダウンが行われている。COVID-19のパンデミックにより、インドの消費者市場を形成する3つの主要なトレンドが生まれた。3つの主要トレンドとは、Eコマースへの軸足の移行、現地のサプライチェーンに重点を置いた、輸出への依存の減少、そして人々が都市部から地方へ移動するという、リバース・マイグレーションによる地方からの需要の高まりを指す。これらのトレンドは、2021年以降も継続することが予想されている。

第2波に襲われる前は回復基調にあったインド経済

パンデミック発生前、インドは世界で最も急速に経済成長している国のひとつであったが、ウイルス蔓延を抑制するための措置により、2020年第2四半期(4-6月期)の実質GDPが前期比25.9%減となり、世界最大級の落ち込みとなった。 同国では、国内の製造施設が閉鎖され、サプライチェーンも寸断されるなど、経済生産に大きな影響がもたらされたが、同年5月には経済活動が再開され、第3四半期(7-9月期)には前期比23.8%増と、世界的にも最も速い成長率を記録した。しかし現在、感染者数が増加していることから、同国の回復は鈍化すると予想されている。

インドの景気回復指数:2020年第1四半期~2022年第4四半期

Source: Euromonitor International – Global Recovery Tracker.
Note: Score of 100+ indicates a full recovery back to 2019 levels. Figures for Q1 2021 onwards are forecast

2021年第1四半期には雇用の回復が見込まれるものの、パンデミックへの不安や、食用油、豆類、香辛料といった必需品やガソリン・軽油などの価格上昇により、消費者意欲は依然として低迷している。また、原材料価格の上昇により、電子機器や家電製品も価格が上がることが予想される。

回復が遅れる2021年のノンエッセンシャルカテゴリー

宝飾品、アイウェア、アパレル、フットウェアなど、いわゆる「ノンエッセンシャル(非生活必需品)」といわれるファッションカテゴリーは、2021年に力強い回復を見せるとみられていたが、第2波の到来およびロックダウン規制により、回復は遅れるだろう。そうした中、小売業者は消費者にリーチするため、革新的な方法を模索している。例えば、アパレル・フットウェアのWestsideやBataは、WhatsAppで商品画像を共有したり、ビデオ通話で注文を受けたりして、消費者と直接コンタクトを取っている。宝飾品やアイウェアの小売業者であるTanishqやLenskartは、消費者が自社ウェブサイトを通じて、自宅への訪問販売を予約できるようにしている。しかし、このような企業努力は見られるものの、消費者は家に閉じこもり、ファッションアイテムを身につけて外出することができなくなっていることから需要は減退し、裁量支出は引き続き低迷することが予測される。

一方で、消費者が自宅で過ごすことが多くなり、必需品や健康・衛生用品は引き続き人々の優先事項であり、これらの製品が2021年の消費者支出に占める割合が上昇することが予想される。これらの製品カテゴリーに関連する企業は昨年の教訓から学び、サプライチェーンの混乱や移動制限という状況に備えて準備を整えている。

インドの産業別売上増減率 ベースラインシナリオ予測(2019年~2021年)

Source: Euromonitor International COVID-19 Dashboard

将来に備えてデジタル化を進める企業たち

パンデミックから生まれた3つの主要トレンドの1つであり、今後もインドに影響を与え続けると思われるのが、デジタル化の加速である。2020年、ロックダウンと移動制限により、企業のビジネスのあり方は、文化的、業務的に急速に変化を遂げ、デジタルがすべての中心に置かれるようになった。 インドの複数の州が封鎖されるなど、規制が強化される中、大手ブランドは2020年の経験から学び、Eコマースによる供給の確保に注力している。国内の大手食料雑貨品ブランドは、Amazon、Flipkart、Big BasketなどのEコマース専業企業が有する既存の配送ネットワークを活用しつつ、Eコマースサービスを拡大している。さらに、Dabur India Ltd、Marico Ltd、Emami Ltdなどの大手消費財企業は、より早く消費者に届けるために、Eコマース専用の製品を発売している。Eコマース専業企業との提携が重要な戦略であることに変わりはない一方で、2021年に求められるであろうD2C(消費者へ直接販売する)モデルに注力し、自社によるラストマイルの接続性を強化するブランドも増えており、代表的な例としては、ITC Ltd、PepsiCo、Bisleri India Pvt Ltdなどが挙げられる。

2020年、インド国内の飲食品のEコマース売上は急速に拡大し、80%の成長を記録した。2021年は第2波の影響もあり、さらに60%成長することが見込まれている。このようにダイナミックな成長を遂げているにもかかわらず、Eコマースがインドの小売売上高全体に占める割合は10%未満であり、同国Eコマース市場の潜在性が非常に高いことがわかる。

Eコマースの成長と同調する形でデジタル決済も増加しており、多くの消費者が非接触型の支払い方法を使うようになった。インドはモバイルファーストの国であることから、QRコードなどをスキャンして支払う電子決済やUPI(Unified Payments Interface)などのオプションが、伝統的小売チャネルの間で広く受け入れられていることから消費者の人気を集め台頭している。

地元ブランドの誇りと共に、自立的な市場を目指すインド

2つ目の主要トレンドは、現地調達への注力である。2020年、インドの消費財分野、特にいわゆる白物家電や黒物家電と呼ばれる電気製品は、輸入品に頼りすぎていた結果、製造工程やサプライチェーンが混乱し苦難を強いられた。原材料不足による同年のビジネスの混乱が生じたことで、サプライチェーンを現地化し、ビジネスの弾力性を高める必要性が明確になった。

インドのナレンドラ・モディ首相は、特別経済パッケージを発表し、現地製造、現地調達、現地サプライチェーンの強化、そして最終的にはインド製製品の消費を促進するなど、自立的な国内経済を目指している。また、インド産の製品を国際市場で販売することで利益を上げると同時に、世界のサプライチェーンおいて同国のプレゼンスを強化しようとする動きもみられる。

2020年に発生した輸入規制、貨物の遅れ、関税の引き上げ、そしてインド政府が工場設立に向けてインセンティブの提供を発表したことなどから、外資系企業はインド国内での製造を拡大し、輸出拠点にしようと考えるようになっている。多くのグローバルブランドが製造拠点を中国から移すことを検討しており、インドはその有利な移転先候補として浮上している。例えば、BSH Home Appliancesは、縦型の全自動洗濯機の生産をインドにシフトし、続いてミキサーやボトムフリーザー冷蔵庫の生産も同国に移している。

主要都市以外に商機を見出す企業やブランド

COVID-19が2021年のインドにもたらしたもう1つの大きな影響は、人々が都市部から地方へ移動するリバース・マイグレーションである。2020年、COVID-19の発生がきっかけとなり、約1,400万人の日雇い労働者が、わずか数週間のうちに都市部から地方に戻った。この逆移動により、必需品である飲食品やホームケア製品、パーソナルケア製品の需要が地方にシフトし、企業やブランドは地方を重要な優先市場と位置付けるようになった。

消費支出全体に占める地方部の割合(2011年~2025年)

Source: Euromonitor International
Note: Data for 2021 onwards is forecast

同様に、柔軟な働き方や在宅勤務制度の導入により、都市部に住んでいた中・高所得者層が地元に戻るなど、消費財製品の需要が第2、第3都市にシフトしている。人口の規模を考えると、2021年の消費財企業の業績回復には、地方からの需要がより大きな意味を持つことが予想される。 ただし、地方には脆弱なインフラやラストマイルの接続性の悪さといった問題が依然として残っている。そのため、企業やブランドは、地方の消費者に製品を届けるための代替流通チャネルや新しい配達方法を模索している。例えば、大手清涼飲料水メーカーのPepsiCoとCoca-Colaは、2020年にCSC Grameen e-Storesと提携した。このプラットフォームを使用する地方の消費者はデジタルで注文を行い、製品を自宅の玄関先まで配達してもらうことができるため、PepsiCoとCoca-Colaは自社ブランド製品を消費者に直接届けることが可能となった。また、Hindustan Unileverは、地方の女性をスモールビジネスの起業家として支援する同社の取り組み「Project Shakti」を活用しつつ、地方における需要を促進している。さらに、FlipkartやAmazonなどの大手Eコマース企業は、必需品のオンライン需要の増加に対応するべく、Tier2都市における食料品の配送サービスを早急に拡大した。今後、規制が緩和され、消費者が都市部に戻ったとしても、パンデミックの発生を受け、以前は入手できなかった多くの必需品カテゴリーが地方に浸透したこともあり、地方の市場は企業やブランドにとって重要な成長ポケットであり続けるだろう。

第2波の猛威もあり、新型コロナによって生まれたトレンドは今後も定着する

2021年4月に発生した厳しい感染第2波により、衛生、健康、免疫力向上に関連する製品への需要は高まりを見せており、企業は免疫向上と衛生の訴求に引き続き注力するだろう。また、2020年に出現した3つの主要トレンドであるデジタル化、現地調達、都市部から地方への人口移動の影響は、2021年にはさらに強まるだろう。COVID-19は、すでに消費者の生活に大きな変化をもたらしているが、これらのトレンドは2021年以降、規制が緩和された後も継続するだろう。

これらのトレンドが自社の事業や製品分野にどのような影響をもたらすかについて、詳しい調査にご興味のある方はこちらまでお問い合わせください。

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(翻訳:横山雅子)