健康、家ナカ消費、デジタルシフト―2021年以降の日本市場を読み解く

※本記事は英語でもご覧頂けます:Health, Home Experiences and Digital Demand: Japan in 2021 and Beyond

2021年3月25日、1年遅れで東京五輪・パラリンピックの聖火リレーが始まりました。しかし、感染者数の増加を受け、4月25日には3度目となる緊急事態宣言が発令されるなど、引き続きパンデミックへの懸念は継続しています。

新型コロナウイルス (COVID-19)は、日本の企業活動や消費行動に大きな変化をもたらしました。例えば、在宅勤務の広がりは、対面や紙ベースでのやり取りを重視する日本の企業文化に風穴を開けました。そして、会食やライブイベント、季節行事など、大人数での集まりによる感染リスクが広く周知されたことで、驚異的なスピードでデジタルシフトが進んでいます。また、日本では元々、マスクの着用や手洗い・うがいといった習慣が日々の健康管理対策として定着していましたが、COVID-19禍では、除菌や換気、ストレス対策といった新たな習慣への関心も急速に高まりました。

日本では、他の国々に見られるようなロックダウン措置ではなく、法的強制力のない外出自粛「要請」というソフトな対策を取ってきました。感染対策と経済活動の両立を模索する中、企業向けの資金繰り対策や各種支援金といった緊急対策によって、雇用の急速な悪化は食い止められている一方で、度重なる感染の波や自粛生活は、消費者心理の冷え込みを招いています。また、日本では4月12日にようやく65歳以上の高齢者へのワクチンの優先接種が始まった段階であり、迅速なワクチン普及によるパンデミック収束への期待感を持ちづらい状況にあります。ユーロモニターインターナショナルでは、主要国の景気回復指数がCOVID-19発生前の水準に回復するのは、中国を除く主要各国で2021年第2四半期(4―6月期)以降、日本においては2022年第3四半期(7―9月期)以降になると予想しています。

主要各国の景気回復指数:2020年Q1-2022年Q4

Source: Euromonitor International, Global Recovery Tracker
Note: Data for Q1 2021 onwards is forecast

本レポートでは、日本の業界動向に精通した当社アナリストが、2021年以降の日本の消費市場の変化を、主に「家ナカ消費」、「健康意識」、「デジタルシフト」の観点から解説します。

化粧品・ファッション:ニューノーマル時代を生きる消費者に寄り添うブランド戦略

マスク着用で変化する化粧習慣:2020年初頭に発生した使い捨てマスクの不足により、繰り返し使えるマスクが一気に市場を形成しました。2021年夏以降、ワクチン接種が広まるにつれ、緩やかに市場は縮小していくことが予測されますが、日本の消費者はCOVID-19発生以前からマスクを着用する習慣があったため、機能性やデザインが改良された繰り返し使えるマスクの市場は今後もCOVID-19発生以前と比較して約3倍の規模を維持することが予測されます。繰り返し使えるマスクがCOVID-19発生以前より高い水準で定着することにより、口紅などのリッププロダクトをはじめとした化粧品市場全体がCOVID-19発生以前の水準に回復するのは、2021年以降も厳しい見通しとなっています。しかし、マスク着用時も露出する眉・目元には複数のアイテムが駆使されたり、ベースメイクには、マスクへの色移り・崩れを防ぐパウダーや化粧崩れ防止スプレーが仕上げに取り入れられるなど、消費者のメイク習慣の変化による新たな商機への対応が重要です。また、マスク着用による乾燥など肌トラブルの増加は、引き続き敏感肌用のアイテムや、保湿力を訴求する製品の成長を支えると思われます。

加速するデジタルシフト:国内の大手化粧品・アパレルメーカーの多くはこの急速なデジタルシフトの流れに対応し、2020年にはライブ配信やオンラインカウンセリング等を通じ、ECチャネルの拡充を推し進めました。Z世代やミレニアル世代を中心に、着用画像やメイクレシピの公開などでブランドの発信に参加することや、商品レビューを通じて商品開発に参加することに価値を見出す消費者が増えており、消費者のブランドへのロイヤルティの高まりが、顧客の定着につながっていくと考えられます。またCOVID-19禍で高まった衛生意識により、従来のように店頭で自由にタッチアップや対面接客ができない状況が長期化する可能性もあります。店頭でのバーチャルなタッチアップ・試着の拡充や、店頭からECプラットフォームへの誘導など、オンラインとオフラインの融合は引き続き重点課題となるでしょう。

化粧品・日用品の購入においてスマートフォン、パソコン、タブレットを使用する消費者の割合:2020年-2021年

Source: Euromonitor International Lifestyles Survey, fielded January to February 2020, 2021 (2020 N=32,241, 2021 N=29,985)

インバウンド消費から越境ECへ:以前に比べ、消費者とブランドがオンラインで直接つながるようになった今、日本人消費者にとって海外の化粧品や衣服を購入することがより身近なものになっていくでしょう。一方、国境を越えた企業と消費者の繋がりは、日本企業にとっては脅威であると同時に、チャンスにもなり得ます。実際にインバウンド顧客を失った後、多くのブランドが越境ECを強化し成果を上げています。旅行制限が解除された後には、旅先での買い物による消費と、自国内での越境ECと、消費者が自らの好みや利便性に応じて選択していくものと考えられます。ロイヤルティプログラム等を拡充し、顧客情報を接触場所に関わらず収集して一元的に管理することで、どちらにおいてもシームレスな購買体験を提供し、ロイヤルティを育成していくことが重要です。

飲料:家ナカ需要の継続、明確な消費理由を求める意識の高まり

家庭で外飲みを再現:アルコール飲料市場においては、引き続き外飲みが苦戦を強いられる中、家飲みにはその代替体験が求められています。2020年に巣ごもり需要を捉えて躍進したRTD飲料の中でも、製法や高い果汁率で本格派を謳ったレモンサワーの各商品は、家庭で居酒屋の味わいを楽しめる点が消費者の心を掴みました。2021年に入ってからは、味や雰囲気を含め、各社が外飲みの美味しさや喉越しを家庭で再現する取り組みを強化しています。例えば、キリンビールは家庭向けビールサーバーの定額レンタルサービスを強化しています。外飲みの代替ニーズは、COVID-19の収束と共に落ち着くものと考えられますが、短期的には最も重要なトレンドといえます。

 オン・オフの切り替えニーズ:在宅勤務制度が広がったことで、多くの在宅ワーカーは手軽な飲料で仕事と私生活のオン・オフの切り替えを図ろうとしています。例えば朝はコーヒーで仕事モードになり、休憩時には炭酸飲料でリフレッシュし、仕事後には低アルコール飲料でリラックスする、という流れを作ることもできます。COVID-19以前から、20代の消費者は上の世代に比べて、仕事(または勉強)と私生活との間に明確な線引きをする傾向にありました。しかし、COVID-19禍では、30代~50代の消費者がその線引きを強化しています。この年代は子育て世代に該当しますが、在宅勤務制度の導入に伴い、日本の狭い住環境下で仕事と子育ての両立が求められ、線引きの重要度が増している状況が窺えます。オン・オフの切り替えニーズを捉えるには、気分の切り替えを想起させるブランドイメージや消費シーンの提案も重要といえるでしょう。

「仕事(または勉強)と私生活に明確な線引きをしている」と答えた日本人消費者の年代別割合:2020年-2021年

Source: Euromonitor International Voice of the Consumer: Lifestyles Survey, fielded January to February 2020, 2021 (2020 N=1,003, 2021 N=1,010)

明確な消費理由を求める:外飲みの機会が貴重になる中で、外飲みには対面での人との交流や、そこでしか得られない味わいや体験といった明確な価値が求められています。単に立地や低価格を売りにしていた居酒屋は選ばれにくくなるでしょう。また、健康管理にも合理的であろうとする今日の消費者は、睡眠の質や覚醒度合いを自分でコントロールしたいと考え、カフェインやアルコール摂取量を意識し始めているため、そのようなニーズに対応するデカフェ製品や低アルコール・ノンアルコール飲料製品は引き続き堅調に伸びるでしょう。2021年、アサヒビールはアルコール度数が0.5%のビール系飲料を発売しています。また、明確な価値を求める消費者の意識は、自分自身への利益に限ったものではありません。飲料業界で急速に進む脱プラスチックの動きや、廃棄される酒粕やビールを新たなスピリッツに生まれ変わらせるといったフードロスへの取り組みは、消費者がそのブランドや企業を選ぶ理由のひとつになるでしょう。

食品・ニュートリション:COVID-19で変化した消費者の食習慣・価値観への適応が成長の鍵

家ナカ需要の継続:外出自粛により、自宅での食事機会が増えたことで、2020年はミールキットや冷凍食品といった時短を叶える商品の売上が急成長しました。在宅勤務がより一般化する中、今後もこのような商品への底堅い需要が見込まれます。中でも、近年共働き世帯の増加により急成長していたミールキット市場では、2020年には外食大手のワタミが手掛ける高齢者向けの宅配弁当事業、「ワタミの宅食」が同市場に新規参入した他、2021年にはミールキット大手のオイシックスが物流キャパシティを拡大するなど、新規参入や生産増強が続いています。既存ユーザーのリピート利用・利用頻度増加や新規ユーザーの獲得等により、今後も市場は拡大傾向が続くでしょう。

体型維持とストレス軽減:食を通じた予防意識の高まりにより、2020年は健康訴求の商品が大きく伸長しました。消費者の健康志向はCOVID-19収束後もトレンドとして定着するでしょう。特に、在宅勤務制度が定着することで、運動不足による体重増加や環境変化等によるストレスの増加が引き続き懸念される中、消費者の体形維持やストレス軽減ニーズは高止まりが続くでしょう。例えば、高たんぱく訴求の商品や、ストレス軽減効果が期待されるGABAやLテアニンを配合した商品は、多くの企業が注力している分野であり、更なる市場拡大が見込まれます。

サステナビリティに対する意識の芽生え:日本人のサステナビリティへの関心は、世界的に見て依然として低い段階にあります。しかし、COVID-19を機に社会問題の“自分ごと化”が進んだことで、日本人消費者のサステナビリティへの意識は大きく高まりました。日本の企業においても、例えば明治が2021年度から向こう3年間でESGへの取り組みにグループ全体で300億円を投じるなど、ESGへの取り組みが加速しています。このような企業の取り組みによって、消費者のサステナビリティへの関心はより一層高まっていくと考えられます。加えて、2020年度から本格実施を迎えた新学習指導要領において「持続可能な社会の創り手の育成」が明記されたことで、子ども世代を起点に日本人のサステナビリティへの関心は更に高まっていくでしょう。

々の行動を通じて環境に良い影響を与えようとしている消費者の割合:2020年-2021年

Source: Euromonitor International Lifestyles Survey, fielded January to February 2020, 2021 (2020 N=41,231, 2021 N=40,732)

ホーム・テクノロジー:「ワーク」と「ライフ」が融合する住空間の進化に向けて

巣ごもり・在宅勤務制度の波及:ホーム・テクノロジーの領域においても、巣ごもり生活や在宅勤務制度の拡大に伴い、2019年から2020年にかけて急成長したカテゴリーがいくつか見られました。ユーロモニターのデータによると、例えば、自宅で仕事をするための自宅仕事用家具(小売販売額ベースで+18%)や、自宅で植物などを育てるための肥料や種子等の園芸道具(小売販売額ベースで+11%)が例として挙げられます。今後、中には2020年の成長の反動が見られるカテゴリーもあると思われますが、長期的には在宅勤務制度は日常に定着していくことが予測され、仕事においてもプライベートにおいても「家」の持つ意味合いは大きくなるでしょう。例えば家電は、より自然にそして当然に、家・他の家電・人とつながりを持つことが求められます。シーリングライトにスピーカー、センサー、WiFi、赤外線リモコン等を搭載したソニーのマルチファンクションライト2は、このトレンドをよく捉えている製品として挙げられます。

冷蔵冷凍庫にコネクテッド機能がある割合:2016年/2020年

Source: Euromonitor International, Consumer Appliances

室内空気質への意識向上:室内空気質(Indoor Air Quality; 以下IAQ)はウイルスの蔓延や黄砂被害の報道のたびに話題になってきましたが、2020年ほど意識の高まった年はなかったでしょう。ユーロモニターのデータによると、日本における空気清浄機市場は、2020年に小売販売台数ベースで前年比+19%も伸長しました。今後、IAQの向上を議論する際は、より総合的な視点が必要となってくるでしょう。空気清浄機やエアコンといった製品単位だけでなく、例えば、家の24時間換気機能、キッチンのレンジフード、(ロボット)掃除機、壁紙、芳香消臭剤、殺虫剤なども含め、より広範にIAQのニーズを考えていくことが求められると考えられます。より価値が高く、より総合的なソリューションを提供するには、各種センサーや、企業間あるいは製品・サービス間での連携が必須です。

サービス・決済:実店舗に求められる戦略

コンテンツ力強化による集客:COVID-19の影響で、国内のEC市場にはかつてないほどの需要が生まれました。反対に、生活必需品以外を扱うオフラインチャネルは、特に好立地店舗において高い収益性の確保が難しくなりました。COVID-19の感染拡大を受け、急速に進んだオフラインからオンラインへのチャネルシフトは、国民のワクチン接種が進み繁華街に賑わいが戻った後も、引き続き実店舗の売上に影響を及ぼすと予測されます。オンライン上では、ARやライブコマースといった、便利でなおかつショッピングの楽しさを感じられるサービスが数多く登場しているため、オフラインチャネルにおいては店頭限定商品や、サブカルチャーやブランドとのコラボレーションなど、コンテンツ力を強化することで集客力を高く保つことが求められます。

消費場所の変化に対応する柔軟性:Uber Eats(ウーバーイーツ)や出前館などのフードデリバリーサービスは、COVID-19発生以降、現在進行形で急速に対応地域を広げており、日本国内における食事の調達方法を大きく変えています。休業や時短営業を余儀なくされた飲食店を中心に、生き残りをかけてデリバリーやテイクアウトにも対応している店舗がある一方、大掛かりな業種転換に踏み込んだ企業もあります。ガストやワタミといった居酒屋やファミリーレストランチェーンは、デリバリーやテイクアウトに対応した唐揚げ専門店を多数出店しています。日本のデリバリー売上比率は上昇しているものの、世界の主要各国と比較するとサービス提供地域や加盟店の拡大にはまだ大きな伸びしろがあり、今後更に拡大していくでしょう。その他にも、モスバーガーが予約制の食パンや、食品メーカーとのコラボレーションでテリヤキバーガー風味のポテトスナックを販売するなど、外食大手による店舗外で消費できる商品の開発が活発化しています。変化に柔軟に対応できるビジネス形態は、今後の不確かな社会情勢を生き抜く上で必要不可欠であり、最も重要視されるべき戦略といえるでしょう。

外食産業におけるデリバリー売上割合:2019-2020

Source: Euromonitor International, Consumer Foodservice

まとめ企業に試されるのは、変化への適応力

1年以上にわたり続くCOVID-19の脅威は、日本の消費市場に大きな影響を与えています。しかし、少子高齢化が進む日本社会において、パンデミックによってもたらされた変化の大半は、未来の課題を先取りするものでした。感染危機による行動制限下で進んだデジタルシフトは、人口減少による人手不足や生産性向上への対応としても以前から求められていた変化であり、今後も不可逆的に進むでしょう。また、在宅勤務制度の拡大や在宅時間の増加は、住環境や食生活など、消費者が私生活の充実に意識を向ける転機となりました。予防的健康、ストレス軽減といった健康意識の高まりは、健康寿命を伸ばす、という高齢社会の課題に対し、長期的にはプラスに働くかもしれません。ニューノーマルな世界では、新たなニーズに対応する高付加価値商品やサービスがより一層求められており、企業に求められるのは、このような変化を「より良い未来を創る契機」と捉え、柔軟に対応する適応力だといえるでしょう。

本記事の著者:
監修:ショーン・クライドラー(ヘッド・オブ・リサーチ)、藤川 ともみ(シニアアナリスト)
ビューティー・ファッション:五来 祐里(コンサルタント)、鈴木 亜弥(アナリスト)
飲料:藤川 ともみ(シニアアナリスト)
食品・ニュートリション:針谷 望(シニアアナリスト)
ホーム・テクノロジー:大和 太郎(アナリスト)
サービス・決済:松永 芽恵(コンサルタント)

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