モビリティの「ニューノーマル」:通勤パターンはどう変わるか

※本記事は英語でもご覧いただけます:The “New Normal” in Mobility: How Commuting Patterns Will Evolve

新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックは、ロックダウン措置や消費者の嗜好の変化、安全性に対する関心への高まりを引き起こした。これらの変化により、今後の消費者の移動行動は変容するとみられている。在宅勤務を採用する企業が増加し、公共交通機関の利用頻度が下がることで、人々の働き方や移動方法も変わるだろう。また、これらの変化は、都市計画や建築セクターにおいて、広範囲に影響をもたらすことになる。

在宅勤務の増加で消費者の移動は減少

消費者にとって、通勤は日常生活の重要な一部である。ユーロモニターインターナショナルの「2020年モビリティ・サーベイ調査」によれば、世界の回答者の52%が「週5日以上通勤している」と答え、回答者の約63%は「毎日の通勤に平均15分~60分かかる」と答えていることがわかる。

しかし、COVID-19のパンデミックにより、多くの国で人々の日常生活や通勤パターンに混乱がもたらされた。2021年には状況は安定に向かう見込みだが、働き方が変わる中、消費者が移動を抑える傾向は、今後も続くものとみられている。在宅勤務が増加していることは、消費者の移動に影響を及ぼす大きな要因のひとつといえるだろう。在宅勤務は、通勤時間の減少やワーク・ライフ・バランスの向上が期待できることから、パンデミック収束後も採用する企業が増える可能性が高い。ユーロモニターの「2020年ライフスタイル・サーベイ調査」によると、世界の回答者の37%は「将来的に在宅勤務を希望する」と答えている。同様に、弊社の「ボイス・オブ・ザ・インダストリー」企業サーベイ調査によると、回答した企業の55%が「リモートワークの拡大を予定している」と答えている。

中心街やその周辺は人々の通勤時間が比較的長く、職場が集中していることから、在宅勤務を採用する企業が増えることによって大都市が受ける影響は大きい。興味深いことに、先述の「ライフスタイル・サーベイ調査」によると、在宅勤務を希望する傾向がより強く見られるのは、新興国市場の消費者である。交通機関の未発達や、それに伴う長い通勤時間が背景にあるとみられる。

健康上の懸念から、公共交通機関の利用が減少し、個人向けの移動手段を使う人が増える

COVID-19パンデミックの中、個人の健康は公共交通機関を利用するうえでの重要な基準となり、2021年も同様のトレンドが続くとみられる。健康リスクが高まると、通勤時に個人向けの移動手段に切り替える人が増えるため、公共交通機関の運営会社が受けるマイナス影響は大きい。Googleの「COVID-19コミュニティモビリティレポート」を見ると、最初のパンデミックの波が収束した2020年の夏、公共交通機関の利用量は完全な回復には至らず、平常時の水準を下回った。

中継駅における消費者の動き 2020年2月-11月

Source: Google’s COVID-19 Community Mobility Reports, 2020. Note: ‘0’ refers to baseline levels

公共交通機関の利用数の大幅な減少は、その運営会社や都市に大きな経済的打撃をもたらすことになる。現地の運輸公社によると、大都市の中でも、ニューヨーク、シンガポール、香港、パリ、マドリッド、ロンドンといった都市は、乗車運賃が公共交通機関の収益の3分の2を占めていることから、大きな課題に直面しているといえる。

一方で、自転車やスクーターのレンタルやカーシェアといったシェアードモビリティのサービスを提供する企業にとっては、この状況は新たなビジネスチャンスにつながるかもしれない。例えば、Mobike(モバイク)やDidi(ディディ)のレンタル自転車事業を行うQingju Bicycleなどは、2020年に増加した自転車シェアリングサービスへの需要に応えるため、中国都市部の通りに設置する電動自転車の数を増やしている。

中期的には、日々の通勤で個人向け乗用車の利用も増加するとみられている。例えば、英国では公共交通機関での通勤を避けるために中古車を購入する世帯が増加しており、他のヨーロッパ諸国や中国でも似たような傾向が見られる。巨大都市においては、個人向け乗用車が完全に公共交通機関に取って代わることはないだろうが、より小さな都市や、長距離間を通勤する人たちにとっては、非常に魅力的な代替移動手段になりつつある。

英国における中古車販売:2019年第4四半期~2020年第3四半期

Source: Society of Motor Manufacturers and Traders (SMMT)

働き方と通勤パターンの変化が都市開発企業の悩みの種に

働き方と通勤パターンの変化は、都市開発や建築、不動産セクターにも影響を与えることになるだろう。在宅勤務の拡大により、大都市の高額な土地よりも、主要都市圏近郊で比較的安く購入できる土地に魅力を感じる人が増えていることから、不動産市場に波及効果をもたらす可能性もある。

住宅関連の消費支出の割合が最も高い都市 2019年

Source: Euromonitor International from national statistics

近郊都市における人口の増加は郊外エリアでの住宅需要を加速することから、建築業界にとっても新たな商機拡大となる得る。さらに、長期的な視点で見ると、オフィスや小売店等の店舗開発事業者も消費者の意思を尊重して郊外エリアの新しい不動産物件に投資するようになるため、商業用不動産セグメントにおける構造的な需要の変化につながる可能性もある。

一方で、郊外エリアへの移行は、都市および都市経済に新たな課題をもたらしている。主要都市圏から人口が流出することで、既存の交通機関や社会インフラなどの設備が需要を上回り、インフラ整備にかかるコストの増加が見込まれる。同時に、働き手や企業が他のエリアに移動することで、都市の税収入の減少という課題にも向き合わなければならなくなるだろう。

パンデミック発生以前からこの問題を抱えていた都市は多かったが、COVID-19が追い打ちをかけたといえる。今後さらに多くの課題が出てくる中、各都市は、人々の通勤や働き方パターンの変化に順応すべく、効率的かつ持続可能な方法を模索する必要がある。その中で、街づくりのあり方を変えようと、既に行動を起こしている都市もある。パリやベルリン、ボゴタで導入された暫定的な自転車レーンなどは、その都市の生活環境を魅力的にするだけでなく、変わりゆくモビリティニーズに適応するための良い例であるといえる。

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(翻訳:横山雅子)