ニューノーマル下の株価:善戦するビューティー・アパレル業界、苦戦するアルコール飲料業界

※本記事は英語でもご覧頂けます:Beauty and Apparel Perform Well in the New Normal While Alcoholic Drinks Struggles

株価のパフォーマンスを見れば、ニューノーマル時代において消費財企業がいかに戦っているか、また、どの業界がより高い回復力を示しているかがわかります。3月23日の安値以降、株式市場は総じて回復基調にあります。例えば、10月21日のS&P500インデックスは、新型コロナウイルス(COVID-19)発生前のピークであった2月に比べて3.0%上昇しており、消費財企業42社中23社の株価が、長引く先行き不透明感の中でもCOVID-19前より上がっています。ただし、食品、ビューティー、ホームケアといった企業が現在の市場環境をうまく乗り切っている一方、アルコール飲料市場は相変わらず低迷しています。

COVID-19を受けた主要企業の株価反応:
2020年3月23日と10月21日の株価を2月のピーク時と比較すると?

Graph showing Stock Market Response to COVID-19 for Selected Key Companies: 23 March and 21 October Relative to February 2020 Peak

Note: 0 line at y-axis indicates pre-COVID level which is set to 21 Feb 2020. The Y-axis shows stock price performance at two periods – 23 Mar 2020, which was the lowest level for stock prices (indicated by a lighter circle on the chart), and 21 October (darker circle on the chart). Both are relative to 21 Feb 2020. The X-axis shows the company’s portfolio income elasticity – how volume sales change relative to GDP change.  

Source: Stock prices from Yahoo Finance! and company elasticities from Euromonitor International.

当初の株式市場の下落を正確に予測した所得弾力性

2020年4月にユーロモニターが発表した記事「Using Elasticity to Understand Company Risk Exposure to Coronavirus」(日本語訳:新型コロナウイルス:弾力性を使用して企業リスクを計測する)では、所得弾力性に基づき主要消費財企業およびCOVID-19状況下における各社のポートフォリオのリスクを考えました。所得弾力性とは、GDP成長1%の変化に対する製品カテゴリーの売上数量の変化を測定するものであり、例えば所得弾力性が0.2%のカテゴリーは、GDPが1%下落すると売上が0.2%下がり、所得弾力性が1.5%のカテゴリーはGDP1%の下落に対して売上が1.5%下がります。現在のCOVID-19状況下において、消費者は必要不可欠ではない製品への支出を控えるようになっていることから、より裁量支出の要素が強い(所得弾力性が高い)製品カテゴリーの比重が大きな企業の売上は下落しやすい一方、食品をはじめとした、生活をしていくうえで必要不可欠とされる(所得弾力性が低い)製品が中心の企業は、需要を予測しやすいことからより耐性が高いという考え方です。

3月、株式市場において売りが集中すると、株式市場の下落と各社のポートフォリオのリスク度合いの間に関係性が確認され、所得弾力性は強い相関性を示しました。ニューノーマルな市場環境に突入して6か月以上が経つ現在、講じられてきたソーシャルディスタンス政策やそれが外食チャネルにもたらした影響、そして財政刺激策が国によって異なることなどから、市場状況はより複雑化しています。

コロナ禍における業績を業界ごとに見ると?

下のチャートでは、消費財企業を「ビューティー・健康」「飲食品」「アルコール飲料」「紙製品・ホームケア」「アパレル」「高級品・アイウェア」の6つのクラスターに分け、各社の2020年3月23日と10月21日の株価を比較しています(縦軸)。また、各社の所得弾力性も確認することが出来ます(横軸)。

ビューティー・健康:直販店主体の企業は夏場に回復

Graph showing companies' Portfolio income elasticity

Source: Stock prices from Yahoo Finance! and company elasticities from Euromonitor International.

ビューティー業界は全体的にCOVID-19の状況を上手く乗り切っているといえます。これら企業のほとんどは10月には3月の下落から回復しており、その多くはCOVID-19発生前のピーク時より10%から20%上昇しています。例えばProcter & Gamble (プロクター&ギャンブル)の株価は、3月には23%の下落だったのに対し、10月には15%上昇を記録しました。

3月、上記チャート内の企業の中で最も好調だったのは、所得弾力性が低いColgate-Palmolive (コルゲート・パーモリーブ)およびReckitt Benckiser(レキットベンキーザー)の2社でしたが、弾力性が高いポートフォリオを有する会社の多くも、10月までには同2社を凌ぐほどの回復を記録しています。

Estée Lauder(エステーローダー)やHerbalife(ハーバライフ)といった自社ブランド直営店での販売を主とする企業は春先には低迷していたものの、3月以降は最も大きな回復幅を記録しています。唯一、10月時点の株価が3月時点より下落しているのがCoty(コティ)です。同社は再建プランに苦戦しており、未だ業績の回復には至っていません。

飲食品:安定はしているがアップサイドは限定的

Graph showing Food and drinks Companies' Portfolio income Elasticity

Source: Stock prices from Yahoo Finance! and company elasticities from Euromonitor International.

加工食品を見ると、特に外食チャネルにおける混乱があったこともあり、話はより複雑です。食品企業の所得弾力性は一般的に低いとされています。食べ物は生きていくうえで欠かせないものであり、消費者はロックダウン措置が敷かれる最中も食品を買い続け、早い段階で買い溜めの対象になる商品もありました。このようなことから、初期段階の株価下落を回避していました。

Coca-Cola (コカ・コーラ)は外食チャネルへの依存度が高いことから、春先に最も大きな影響を受けた企業のひとつです。3月の株価はCOVID-19発生前のピーク時に比べ37%下落しました。その後回復したものの、10月時点では依然マイナス15%の水準です。一方、PepsiCo (ペプシコ)は、飲料の他にスナック菓子を有するなど、よりバランスの良いポートフォリオであることから、受けた影響は比較的少ないといえます。

上記の飲食品企業クラスターの中で最も好調だったのがKraft Heinz (クラフト・ハインツ)、Conagra Brands(コナグラ・ブランズ)、General Mills(ゼネラルミルズ)といった食品メーカーで、10月21日までに10%から20%の上昇を記録しています。対照的にDanone(ダノン)は、依然として3月時点の株価よりも低水準のままですが、これはパンデミックの影響というよりも、乳製品の消費低下を受けての同社の企業再編によるところが大きいようです。

アルコール飲料:ソーシャルディスタンスが外食チャネルにおける回復に待ったをかける

Graph showing Alcoholic drinks Companies' Portfolio income Elasticity

Source: Stock prices from Yahoo Finance! and company elasticities from Euromonitor International.

アルコール飲料業界では厳しい状況が続いており、上記クラスター内の全ての企業の株価が、依然としてCOVID-19発生前の水準を下回っています。世界のビール最大手であるAnheuser-Busch InBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)は、3月時点の42%下落の状態から回復傾向にありますが、COVID-19発生前のピーク時に比べると未だにマイナス22%の水準です。一方、スピリッツ類が強いDiageo(ディアジオ)やPernod Ricard (ペルノリカール)、Carlsberg(カールスバーグ)は、規制解除が早かった中国における事業に助けられ、株価もより上向きだといえます。

ビールといった製品カテゴリーは所得弾力性が高くはないものの、ソーシャルディスタンス措置によって外食チャネルでの売上回復にブレーキがかかっており、また、多くの外食店舗において座席制限や営業時間の短縮が実施される中、消費者は外食しに店舗に戻ることに対して未だに警戒心を持ち続けています。このようなことから、アルコール飲料産業の所得弾力性は、必ずしも直接的な相関性を示していない一方、ソーシャルディスタンス措置からの影響をより受けやすいといえるでしょう。

紙製品・ホームケア: 引き続き順調な業績

Graph showing Tissue and home Companies' Portfolio income Elasticity

Source: Stock prices from Yahoo Finance! and company elasticities from Euromonitor International.

春先、最も業績が好調だった業界のひとつが紙製品・ホームケア業界です。Clorox(クロロックス)に至っては、あらゆる産業のほぼ全ての企業の株価が下落した3月でも、ホームケア製品の需要が急増したことから、株価が3%上昇しました。その後もホームケア製品の需要は下がらず、10月21日時点のCloroxの株価は30%の上昇を記録しています。

世界最大のティッシュメーカーであるKimberly-Clark (キンバリークラーク)の株価は、買い溜めが発生したトイレットペーパーなどの分野で同社が大きなシェアを持っているにもかかわらず、3月には20%下落しました。しかし、10月になると紙おむつをはじめとした他の製品の需要が回復するのに伴い、株価も上昇しました。日本の紙製品メーカーであるユニチャームの株価は日本、中国および東南アジア市場の回復の恩恵を受け、32%上昇という最も顕著な改善を記録しました。一方、スウェーデンの衛生用品メーカーであるEssity (エシティ)の株価は、10月の時点でもCOVID-19発生前のピーク時に比べ、マイナス3%と落ち込んでいます。

アパレル・フットウェア:最大級の回復を見せた企業も

Graph showing Apparel and Footwear Companies' Portfolio income Elasticity

Source: Stock prices from Yahoo Finance! and company elasticities from Euromonitor International.

アパレル・フットウェアは消費財の中でも最も所得弾力性が高い製品分野です。その結果、3月には全てのアパレル・フットウェア企業の株価が急落しましたが、その背景には所得弾力性の高さだけではなく、これら企業の多くが依存している店舗販売が出来なくなったことが挙げられます3月、GAP(ギャップ)の株価は63%の下落、Nike(ナイキ)とAdidas(アディダス)はそれぞれ37%と36%の下落を記録しました。

しかし3月以降、店舗営業が再開されるに従って顕著な回復が見られました。最も劇的な回復を見せた企業の一つがNikeです。同社の株価はマイナス37%からプラス30%の水準まで復調しました。同様にGAPも目覚ましい回復を記録しました。3月には会社の存続さえ危惧されていましたが、10月にはCOVID-19発生前のピーク時(2月21日)に比べ、プラス13%を記録しています。一方、Marks & Spencer (マークス&スペンサー)はブレグジットによる先行き不透明感も影響し、低迷が続いています。

高級品:需要は回復しつつあるが、サングラスは相変わらず低迷

Graph showing Luxury Companies' Portfolio income Elasticity

Source: Stock prices from Yahoo Finance! and company elasticities from Euromonitor International.

高級品業界は、今回ユーロモニターが株価をモニタリングした業界の中で最も小さなグループであり、アパレル業界ほどではないものの、弾力性が極めて高いことが株価の下落と回復の程度に表れています。業界最大手の2社であるLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)とKering(ケリング)の株価は、いずれも3月の下落から回復しています。両社とも専門店での販売が主であるため、店舗営業再開に伴う回復傾向はビューティー業界の動向と似ているといえます。

一方、Essilor Luxottica(エシロールルックスオティカ)は、パンデミックによって旅行が制限され、サングラスの需要が減少したことから、株価は10月になってもマイナス20%と低迷しています。

立ち直りつつある消費財業界、今後の鍵は店舗営業を継続できるかどうか

株式市場の全体的なパフォーマンスは夏場には顕著な回復傾向にありましたが、3月と10月の企業の立ち位置の違いを見ると、経済状況だけではなく、店舗閉鎖やイベントの中止の影響がいかに大きいかがわかります。店舗での販売が中心の企業が、夏場の店舗営業再開に伴い回復を見せたということは、パンデミックの第2波が到来した際、店舗閉鎖が最大のリスクになることを意味しています。

夏場にペントアップ需要が発生したことで、アパレルや高級品といった所得弾力性が高い業界でさえも回復基調に乗るなど、経済のネガティブな影響は薄まりました。また、政府による刺激策や金銭的支援策は、消費者マインドにポジティブな影響をもたらしたといえるでしょう。

しかし、パンデミックの第2波が発生した場合、春先からの回復状態を維持することは難しくなり、特に回復度合いが大きかった企業は、再び株価が急落するリスクをはらんでいます。McDonald’s(マクドナルド)のような、普段は不景気の中でも強いとされる企業でさえも、店舗閉鎖の影響により当初は苦戦を強いられ、今後も再度の店舗閉鎖の可能性というリスクがあります。オンラインチャネルの台頭は大きなトレンドになりつつあり、その重要性は冬が近づくにつれ更に高まるでしょう。