コロナ後の世界におけるアルコール飲料の主要トレンド

※本記事は英語でもご覧頂けます:Key Trends in Alcohol in a Post-Coronavirus World

新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックは、アルコール飲料の消費機会の急激な減少、世界中での飲食店の大規模な休業・閉鎖、そして長期にわたる不況をもたらし、アルコール飲料を取り巻く市場状況を一変させました。この歴史的なパラダイムシフトには、3つの大きな特徴が見られます。

飲食店の衰退と「ニューノーマル」を読み解く

バーやクラブを含む飲食店は、短期的な業績にも深刻な打撃を受けていますが、中長期にわたる影響はさらに顕著に表れることが予想されます。

Source: Euromonitor International

数か月に及ぶロックダウンに伴い、長期にわたる損失を受けて、多くの店舗が完全閉店を余儀なくされるでしょう。

店舗は営業を再開するにあたり、これまで顧客に提供してきた体験を根本的に見直し、長期的に求められるソーシャルディスタンス対策を促進させ、今まで取り入れてこなかった技術イノベーションを導入することが必要となるでしょう。つまり、長期間の自主隔離が人々の社交機会にもたらす大きな影響や心理的な負担、恐怖心を和らげることが求められるようになると考えられます。

飲食店はすでにギリギリの利益の中で営業しており、これからCOVID-19の第2波、第3波の発生も高い確率で予測されるなど、非常に警戒すべき時期に突入していく中、フル稼働の営業状態に戻るまでには時間を要するでしょう。

ワクチンや治療薬がない中では、ある程度のソーシャルディスタンス対策はどうしても必要となるため、人が多く集まるイベントやクラブ、ライブ会場といった場所は今後も、短期的および中期間にわたり、非常に厳しい状況が続くでしょう。

家は住まいであると同時にエンターテイメントの拠点に

近年、アルコール飲料業界では、自宅でカクテル作りや樽出し製品を体験できるデバイスが注目されてきました。これらは、もともと高価格帯商品として位置付けられていましたが、巣ごもり消費や、利便性、デジタルとリアルの融合といったコンセプトも持ち合わせていたことから、偶然にも、その後に起こる「コロナ後の世界」の中で何が求められるようになるか、を垣間見せていたといえます。

しかし、現状に満足し、本質的に保守的とされるアルコール飲料業界の性質や、そのような技術を完全に受け入れることに消極的な消費者という要素が重なり、こういったデバイスのいくつかは試作段階で頓挫したり、普及率も比較的限られていました。しかし、これらの傾向も今や変化の兆しを見せています。

数値面での裏付けはないものの、これら新事業領域に思い切って飛び込んだスタートアップ企業の売上は、今回のCOVID-19危機によって大幅に増加しているようです。例えば、自動でカクテル作りを再現してくれるポッド型のデバイスを提供するBartesian(バーテシアン)は、家庭用デバイスという新しいセグメントの草分け的存在といえます。

今後は、オープンアーキテクチャを採用して設計や仕様を公開することで、第三者企業が専用容器を提供できるようにするなどし、こういったデバイスの利用のしやすさと実験性を大きく高めていくことが重要になります。オンラインレシピの公開や、ますます拡大するオンラインコミュニティの間でアイディアを共有したり、バーチャルな繋がりを構築したりすることで、このようなデバイスの可能性はさらに高まっていくでしょう。

クラフトの時代は終わる?

クラフトセグメントは、既に市場の成熟化および飽和化といった逆風に直面していました。一時の爆発的な成長曲線も緩やかになる中、COVID-19によって、かつて高い支持を得ていたクラフト革命も終焉を迎えそうです。キャッシュフローが滞ったことで地ビール工場直営のパブは閉店するなど、外食チャネルは壊滅的な打撃を受けていると同時に、消費者が慣れ親しんだブランドへ回帰する動きがあることから、クラフト飲料メーカーの多くが倒産、統合していくと予想されます。

ニッチで超地域密着型のビジネスチャンスが生まれ、主要な地域的・全国的クラフトブランドが地位を確立する一方で、中規模クラフトブランドの多くは廃業してしまうか、財務状態が健全な大手企業の買収対象となる可能性があります。

クラフトセグメントは中・高所得者層を主なターゲットとしているため、今回の危機においても、ある程度は最悪の事態を免れたといえます。また、定性的には、同セグメントは主要な米国市場において期待以上の強い回復力を見せているといわれていますが、その持続性については疑問が残ります。政府による金融・雇用支援制度が段階的に廃止された場合、経済波及効果はより厳しくなるため、高価格帯商品の売れ行きが伸び悩むのは必至です。

クラフト蒸留酒市場上位10か国のカテゴリーシェア(%):2019年

Craft’s share of spirits Craft volume

(‘000 litres)

Brazil 8.9 % 63,093.2
Australia 5.5 % 3,830.8
Bulgaria 4.8 % 2,453.6
Austria 4.2 % 1,169.8
Canada 3.8 % 6,473.5
USA 3.5 % 72,683.7
Ireland 2.9 % 602.7
Norway 2.6 % 336.1
Belgium 2.3 % 589.3
Switzerland 2.3 % 530.9

Source: Euromonitor International

世界のアルコール飲料市場は、パンデミックの発生以前から飽和状態であり、同一カテゴリー内もしくはカテゴリーを超えた競争の激化、世代間の飲酒習慣の変化といった問題に直面していました。クラフトのようなセグメントが消費者から切望され、勢いを増していた一方で、主要ブランドはミレニアル世代やZ世代消費者にその価値を見出してもらうことに苦戦していました。このような状況下、特に不況が深刻化する可能性がある中においては、プレミアム化の流れは失速するため、短中期間においては数量・金額ともに売り上げは低成長になることが見込まれます。

一方で、飲食店の崩壊とそれが小中規模のメーカーにもたらす重圧により、更なる企業合併の機会が増えることは必然的だといえますが、大手メーカーは過去のM&A活動の流れにあった「根拠なき熱狂(株価の高騰)」を回避しつつ自らの利益を確保しようとするため、これらの合併は折衷的で日和見主義的になるでしょう。

アルコール飲料業界は、パンデミックの影響を全く受けていないとは言い難いものの、不況に際しては、今回も速い対応力と回復力を見せるでしょう。