※本記事は英語でもご覧頂けます:Coronavirus Increases Demand for Autonomous Vehicles
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックはモビリティの分野に大きな影響をもたらしています。多くの通勤者は安全への懸念から個人用の移動手段を選ぶようになりました。また、Eコマースの増加をはじめとした買い物習慣の変化によって、小売業および物流市況も大きく変わり出しています。こうしたことが消費者およびビジネスからの自動運転車への需要に影響をもたらしていますが、現在財務的に苦しい自動車企業が、これらの需要を満たすことは難しいかもしれません。
ECブームが物流と配達における自動運転車の需要を引き起こす
COVID-19の感染爆発以降、健康不安の高まりとロックダウン措置もあり、多くの消費者がEコマースを使うようになりました。例えば、世界2大Eコマース市場である中国と米国では2020年、インターネット小売の販売額がそれぞれ23%と18%の実質成長を遂げると見られています。消費者嗜好の変化も、小売業界に長期的な変化をもたらすものと考えられています。ユーロモニターが2020年4月に実施した「ボイス・オブ・ザ・インダストリー:COVID-19」サーベイ調査によると、回答者の54%が「オンラインにおける支出は恒久的に増え続けるだとう」と答え、28%は「実店舗への訪問は今後も減らすつもりだ」と回答しています。
世界の主要Eコマース市場 2024年予測
Source: Euromonitor International from national statistics, trade sources
このような変化が物流および配送の需要を押し上げており、企業は需要に追いつくために、早急に稼働能力を増やす必要があります。自動運転車は、配送ネットワークの拡大、コスト削減、そしてソーシャルディスタンス対策への対応といった観点からも魅力的な選択肢だといえます。
2020年の第一四半期、物流会社の多くが限定的な地区において自動運転車の導入を開始しました。例えば、自動運転配達のNuro(ニューロ)はカリフォルニア州の公道において、同社のバンを走行することが許可されました。また、GM(ゼネラルモーター)傘下のCruise(クルーズ)はサンフランシスコにおいて、フードバンクの食品を高齢者に配送するサービスに自動運転車を使い始めました。さらに、自動運転車は医療業界にとって安全で魅力的な選択肢となりつつあります。Mayo Clinic(メイヨー・クリニック)はフロリダ州において、COVID-19の検査の輸送に自動運転車を使用しています。
世界の主要郵便・物流市場 2024年予測
Source: Euromonitor International from national statistics
Eコマースのブームもあり、物流業界における自動運転テクノロジーのスタートアップへの投資は加速することが予想されています。自動運転車への投資は、物流会社の稼働能力拡大や輸送コスト削減につながるでしょう。例えば、自動運転テクノロジーによって、燃料コストは15%削減が可能になります。そして、物流企業が得る恩恵は最終的な消費者に利益をもたらします。DHLによると、自動運転のテクノロジーによって1㎞あたりの移動コストは40%削減されるため、これらの節約は部分的に物流サービスの利用者に還元される可能性があります。
また、自動運転車は人口の高齢化という問題を抱える先進国市場に希望をもたらします。先進国におけるトラック運転手の平均年齢は約50歳であり、多くの国では新たな運転手の確保に苦戦しています。自動運転車は運転手不足の問題を軽減と、配送ネットワークの改善への貢献が期待されます。
自動運転車への関心を高める一般消費者、そして政府機関
健康不安の高まりと通勤スタイルの変化によって、自家用車の需要が消費者の間でも増えています。ユーロモニターが実施した「ボイス・オブ・ザ・インダストリー」サーベイ調査によると、回答者の13%が「恒久的に車での通勤を増やす予定だ」と答えています。
また、COVID-19の影響で、運転免許を取得したい若者世代や都市部に住む人々が増えました。例えば、自動車業界のデジタルマーケティングエージェンシーであるHedges & Company(ヘッジス&カンパニー)によると、米国における運転免許保有者は2020年に300万人増え、合計2.3億人になると予測されています。Google Analytics(グーグルアナリティクス)の分析を見ると、2020年の下半期に入り、米国、英国、ドイツ、日本をはじめとする様々な国において、より多くの人々が運転免許試験について調べるようになっていることがわかり、自動車の需要が増える可能性を示唆しています。新たに運転免許を取得する人々の多くが都市部の住人であり、自動運転車は距離の短い通勤にとっては魅力的な選択肢となります。自動運転車であれば駐車場を探す必要も無くなり、ラッシュアワー時にはより便利な通勤方法となります。
自動運転車への関心は世界的にも高まりを見せており、ユーロモニターが2020年2月に実施した「モビリティサーベイ調査」によると、23%の回答者が「安心して自動運転車を運転出来るだろう」と答えています。また、14%の回答者が「自動運転車が使用出来るようになれば、自家用車は要らない」と答えています。
回答者が「安心して自動運転車を運転出来るだろう」と答えた割合が高い国 2020年
Source: Euromonitor International Mobility Survey 2020
自動運転車は、COVID-19収束後の経済における成長エンジンのひとつになると考えられており、各国の政府も開発への取り組みを加速させています。例えばイタリア北西部の都市であるチュリンは、自動運転関連技術のスタートアップ企業の誘致を画策しています。また、韓国政府も自動運転技術を促進させるべく、2024年までに必要なインフラを整備することを目指しています。
財政難に苦戦する自動車会社は需要を満たせるか
自動運転車への需要が高まる一方で、現在の自動車業界を取り巻く財政的な問題により、それらの需要を満たすことは難しく、完全自動運転車の市場への導入は遅れる可能性があります。
2020年の上半期、世界の自動車会社の主要10社の損失総額は61億米ドルだったと報じられました。財務および流動性の問題により、各社は研究開発コストの削減を余儀なくされており、自動運転関連の計画は真っ先に影響を受けています。例えば、Ford(フォード)は自動運転のサービス開始を1年延期することを発表しました。また、BMW(ビー・エム・ダブリュー)とMercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)は自動運転の共同計画を打ち切り、Alphabet(アルファベット)の自動走行事業であるWaymo(ウェイモ)も、公道試験を一時的に中断しています。
自動車会社主要10社の収益合計
2019年第4四半期、2020年第1四半期、2020年第2四半期
Source: Euromonitor International from company reports
走行試験およびインフラの開発は、自動運転車の市場導入を成功させるうえで重要な鍵となります。自動車業界の財務問題により、完全自動運転の市場導入は当初予想されていた2022~2023年から2、3年遅れ、結果として2025年にずれ込むものと見られます。しかし、Eコマースのブームとそれに伴う物流業界の更なる取り組みと投資が、自動運転の開発を促進し、商用車としての納品をスピードアップさせることにもつながるでしょう。物流企業からの投資流入によって自動車企業のキャッシュフローが改善し、より多くのリソースを次世代の技術に投入出来るようになる可能性があります。
より詳細を知りたい方は、ユーロモニターのレポート「The New Mobility Ecosystem」(有料)をご覧下さい。