※本記事は英語でもご覧頂けます:Alcoholic Drinks: Top Three Trends: Darkest Before the Dawn?
2020年は、高速道路での大事故を皆で同じバックミラー越しに見ているかのように衝撃的に過ぎて行った。そのような中で、アルコール飲料業界は今なお激しく変化し、未だかつてないほどの圧力と不安定に直面している。しかし、同業界は、この1年間にわたり新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによる影響を受けながらも、強い回復力を持ち、人々の暮らしに欠かせないものであり、状況に適応しつつ進化する能力があることを証明した。疫学、社会動学、マクロ経済的リスク、生活様式の選択といった様々な要素がひとつのカクテルの中で混ざり合うように、流動的でありながらも根本的には慎重な楽観主義を歩む同業界について、今後1年間で生じるであろう主要なトレンドを読み解いていく。
外食チャネル:冬の時代は過ぎ、トンネルを抜けた先に(宴の)光が見える
今回のパンデミックで最も大きな衝撃を受けたのがホスピタリティ業界であることは間違いない。
外食チャネルの売上が100年に一度の危機に直面し続ける中、アルコール飲料企業は、短期的には収益性へのシフト、利益率の高い製品の販売、手間暇のかかるメニューや自社製原材料の提供の回避、人員の削減、ノスタルジーを感じるようなクラシック製品の提供といった戦略を取ることになるだろう。
しかし、中長期的には、嗜好品へのペントアップ需要の高まりや社交場の再開を熱望する人々、健康に対する考え方がこれまでの臨床的なそれから幸福主義にシフトしつつある社会の風潮などにより、アルコール飲料市場は力強い回復が期待されている。振り返れば、1917年のスペイン風邪のパンデミックが収束した後には、「狂騒の20年代」といわれる時代が到来した。
外食におけるビールの販売数量(2020年)とシナリオ別予測
Source: Euromonitor International Alcoholic Drinks Forecast Dashboard
Note: Graph depicts baseline forecasts against a range of Pessimistic/Optimistic COVID-19 scenarios
市民権を得たノンアルコール飲料とその限界
低・ノンアルコール飲料に注目した「Lo and No Beverage」トレンドは、ここ数年、主に西欧の主要市場で徐々に盛り上がりを見せている。これらの製品は、ビール系飲料からスピリッツカテゴリーに至るまで、また、あえて酒類を飲まないSobar-curious(ソバーキュリアス)の人たちのためのイベントやお祭りから、アルコール飲料を提供しないホスピタリティの場まで、人々の健康やウェルネスに対する関心の高まりに密接に結びつくようになった。その結果、意識的な飲酒を指す、Mindful drinking(マインドフルドリンキング)という概念が生まれた。マインドフルドリンキングとは、禁酒主義を目的とするよりも、ソーシャルメディア時代における生活様式の選択肢、また、個人でブランド情報を収集・整理することに対してのアプローチである。伸びしろが大きく、プレミアムに位置するこのセグメントは、今後も低迷するアルコール飲料業界に商機を提供すると同時に、新製品の投入やプロモーションによる支援、そして結果的に高まる消費者の関心によって、着実な利益率をもたらすことになるだろう。
ただし、アルコール関連の死亡事故については、過度に大きく報道されるきらいがある。ノンアルコールのトレンドの広がりはまだ初期段階にあるものの、潜在的なメリットは疑う余地もない。その一方で、このトレンドに関しては、説明がつかない過熱ぶりや過剰な期待といった要素がますます大きくなりつつある。
各社が一斉に高価格帯カテゴリーだけに注力するようなことがあれば、COVID-19収束後の世界でマクロ経済の厳しい現実に直面することになるだろう。考えるべきは、回復の兆しが見えてきた中で、贅沢と快楽主義を求めるペントアップ需要が一気に開放されれば、ノンアルコールカテゴリーは文化的な意義を失い、人々の需要が禁酒製品よりも向精神作用のある代替品へシフトする可能性があることである。
パンデミック後の波及効果:分極化する市場
お酒を飲むこと以外に自由に使えるお金の使い道がないことや、小売店で購入できる主要アルコールブランドの製品価格が外食店での提供価格と比べて割安であること、そして大多数の主要市場で景気刺激策が実施されていることなど、これらすべてが昨年大々的に進められたアルコール飲料製品のプレミアム化を後押しする要素となった。意欲的な消費と、より上質な(そしてより高価格帯の)製品やカテゴリーへのシフトは、10年以上も前から重要なテーマとなっていたことから、プレミアムカテゴリーの回復力の強さは驚くことではなく、少なくとも短期的には続く見込みだ。
しかしながら、社交場が再開し、ショッピング、ホスピタリティ、旅行や観光といった裁量支出の機会が再び戻り、そして徐々に拡大されると、プレミアム・アルコール飲料は、「消費者の生活の中における数少ない楽しみ」としての地位を失うことになる。また、これまで行われてきた手厚い財政刺激策も、将来的には大幅に縮小するか完全に撤回されることになる。それに加えて、英国で既に予想されているように、遅行指数である失業率の上昇も続くとみられている。
つまり、マクロレベルでは、ほぼ画一的にプレミアム化に注力するアルコール飲料業界を支え続けることができないため、より異なる意味合いを持たせた、多様な戦略を採用する必要がある。
そのため、中期的には、高価格製品から安価製品へのスイッチ、異なる価格帯からの購入、そして二極化(プレミアム製品を求める需要の高まりと節約・倹約志向の高まりが、その中間にある主力製品市場を侵食することになる)がプレミアム化一辺倒のトレンドに取って代わるだろう。
英国における失業率予測:ベースラインおよびCOVID-19悲観的シナリオ1に基づく(2021年第2四半期)
Source: Euromonitor International Macro Model
Note: In the COVID-19 Pessimistic1 scenario there are 2-3 global pandemic waves in 2021-2022. Global real GDP growth is 2.2-3.8% in 2021 and 1-3% in 2022.
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(翻訳:横山雅子)